アラヤーさんは京都市内の特別養護老人ホームや保健所でのインタビュー・映像撮影を進めるかたわら、滞在制作の拠点である京都芸術センターでも、こそこそと何かをたくらみ、作り始めました。門から正面入り口まで続く通路脇の、木々が生い茂る細長い庭に、いつのまにやら、3つの蚊帳で覆われた秘密基地のようなスペースが出現していました。徐々にテーブルや椅子、カーテンなどが運びこまれます。
チェンマイの自宅では15匹の犬と一緒に暮らしているというアラヤーさん。一日の多くの時間を広い庭で過ごしてきたので、室内よりも外が大好き。用意された制作室ではなく、この秘密基地のような屋外の仮設スタジオを、京都での滞在制作の拠点としたいとのこと。天気の良いある日、3人の男性と、3人の女性をそれぞれ誘い入れ、「昔と今の比較」や「最近の政治情勢」、「今日の服装」「初恋」などさまざまな話題で井戸端会議をしてもらい、そのようすを撮影しました。
この蚊帳でできた仮説スタジオが、「なんとなくホームレスの住まいを連想する」と指摘されて、鴨川沿いのホームレスのおじさんに会いに行くことにしました。20年以上ずっと鴨川沿いで暮らしているというTさんは、土手に手作りの可愛い木製階段をしつらえ、植木鉢にきゅうりやトマト、なすび、ピーマン、スイカを育てるという丁寧で健康的な暮らしぶりを、快く見せてくれました。洪水が来るたびに植木鉢や物が流されてしまうけれど、また同じように野菜を植えて、家を整えるという繰り返しを実践してきたというTさん。アラヤーさんは何度も共感を覚えて、Tさんの言葉をノートに書き留めていました。